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Mastery for Service




Mastery for Service

リポート

2025年11月16日、「関西学院ホームカミングデー2025」の場で、ブランドサイト『Mastery for Service』によるトークイベント「まちづくりと Mastery for Service」を開催しました。登壇いただいたのは、大阪阿倍野を拠点に活動するコミュニティデザイナーの加藤麻理子さん、香川県琴平町で鎌倉時代から続く家業を引き継ぎ、まちおこしに尽力する池龍太郎さんです。

それぞれ違うフィールドで「まちづくり」に携わるお二人が、学生時代の経験や現在の活動、そしてその根底に流れる Mastery for Service の精神について語った、イベントの様子をお伝えします。

個をエンパワーする「ワークライフブレンド」という視点

まずは、これまでの活動や現在取り組んでいることを、それぞれお話しいただきました。

加藤さんが「まちづくり」について意識したのは、関西学院大学総合政策学部に在籍していた頃。3年生の夏に、イタリア研修に行ったことがきっかけでした。「人口1300人ほどの山間の小さなまちに滞在したのですが、人々が朝はバルで近所の人とおしゃべりをし、まちを訪れる商売人からものを買ったり、学生たちが古い教会の前でファッションショーをしたりしている風景と出会いました。そんな日常風景や人と人とのふれあいがとても豊かに見え、『まち』と『暮らし』は切り離せないものなんだと学生ながらに心が動かされました」と、当時を振り返ります。

また、卒業後は関西各地で地域活性化プロジェクトの立ち上げを経験。その中で、一人の女性が移住先のマーケットイベントでお店を出したところ人気が高まり、やがて自分の店を構えるまでに成長し、さらにその取り組みが移住のロールモデルとしてメディアに取り上げられるのを目の当たりにします。「一人の人が自分の好きなことで輝き始めるだけで、まち全体の空気が変わる。その衝撃は昨日のことのように思い出せますし、この出来事が今の私につながっています」と、現在の活動の原動力を語りました。

2018年5月、加藤さんは「THE MARKET」をオープン。近隣にオーガニック野菜と食品の専門店やシェアスペースも開設している

そんな加藤さんが大切にしているのは「ワークライフブレンド」という考え方。仕事とプライベートを切り分けるのではなく、自分の価値観を軸に混ぜ合わせ、相乗効果を生むように働くというものです。

「出産後、働き方に悩んだ時期がありました。調べていく中で、第一子出産を機に仕事をやめる人が約半数、仕事と子育ての両立に不安を抱えている女性が9割を超えると知り、これは自分だけの問題ではないと気づいたんです」

加藤さんは、これをきっかけに2025年3月、地域でチャレンジしたい女性を支援する「株式会社HerPlus」を設立。現在は、まちづくりとともに女性支援の取り組みにも注力しています。

「まちづくりは、一番身近なMastery for Serviceだと思います」と話す加藤さん

「人生に何度も訪れたくなる町」をめざして

続く池龍太郎さんは、香川県琴平町で「五人百姓」の28代目として金比羅宮の神事に携わる一方、お土産屋「五人百姓 池商店」を営み、まちおこしにも尽力しています。

大学卒業後は「地域を元気にできる仕事をしたい」と考え、まずは地元・香川県の銀行に就職。その後、琴平町役場で職員として行政にも携わりました。「いつかは家業を継ごう」と考えていた池さんの心を動かすきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの流行でした。

「いつも人であふれていた参道が一気にシャッター通りになり、近所のおじいちゃん、おばあちゃんが目に見えて弱っていくのがわかりました。これは何とかしないといけないと、背中を押された瞬間でした」

人影が途絶えたコロナ禍のこんぴらさん参道

池さんは店を継ぐとともに、約100年ぶりの大規模改装を行います。さらに、地域の資源と掛け合わせる形で、飴を生かしたスイーツや県産の茶葉を使った「あめ茶」の販売など、新たな取り組みを次々に始めました。ほかにも地元の方々とともに、地域活性化のためさまざまなイベントを実現させていきます。

また、池さんは琴平町の魅力を語り継いでくれる人を増やす活動にも力を入れていると言います。そんな池さんがめざすのは、琴平町を「人生に何度も訪れたくなる町」にすること。その目標に向かって、池さんの挑戦は続きます。

池さんの軽快な語り口に、会場から笑いが起こる場面も

粘り強く続けた先に見える「まちづくり」の光

自己紹介のあとは、それぞれが感じる「まちづくり」の醍醐味について伺いました。

加藤さんは、ワークライフブレンドを取り入れてから、「ママ友が仕事仲間になったり、それまで街ですれ違うだけだった人が知り合いになったり、公私が混ざり合うことで自分の暮らしに相乗効果が生まれる実感があります」と話します。

一方、住民として「まちづくり」に関わる池さんは、「『お金にもならないのに、それをやって何になるの?』と言われることも多いのですが」と前置きしつつ、力強く訴えます。

「地域を動かせるのは、いまそこに住んでいる人だけだと思っています。次世代を担う子どもたちが『大人になってもここで暮らしたい』と希望を抱ける琴平町にしたい。その一心で取り組んでいます」

二人のまっすぐなメッセージに、時折頷いたりメモをとったりする参加者の姿が見られました。

次に話題にあがったのは、まちづくりの現場で大変だったこと、うまくいかなかったこと。まちづくりの取り組みの一つとしてマーケットイベントを開催している加藤さんは「苦労したことはもう忘れてしまいました」と笑いながらも、課題について口にします。

「マーケットイベントのように、つくり手から商品を直接買うことは、昔の日本では当たり前でした。ところが、今は大型商業施設やネットショップが増えたことで、少し“ハードルが高いこと”のように思われがちです。でも、対面での買い物を通して、会話をしたり人とふれあったりすることには大きな価値があると私は考えています。人によっては、孤独を和らげることにもつながるかもしれません。だからこそ、昔の当たり前を今の当たり前にしたいんです。その価値を伝えるために、どんな言葉やビジュアルが適しているのかはずっと考えていることです」

一つとして同じまちはないため、加藤さんは「まちづくり」に関わる際にはまちの魅力を100個以上書き出し、「ここを好きになってくれるのはどんな人か」を徹底的に言語化しているそうです。「その人に届く表現を試し、合わなければ変えていく。そうしたトライ&エラーの積み重ねが、新しい文化を育てる土壌になると考えています」

さらに、池さんから「地域の重鎮のような方とぶつかった経験はありますか。僕は、ここがまちづくりで一番難しい部分だと感じているんです」と尋ねられると、加藤さんは「ありますね。よそものは認めないと言われたこともあります」と、深く頷きます。「でも、やり続けるしかないと思っています。次第にまちの人が喜んでいる姿が増えると、支援していただけることもありますから」と、粘り強さが重要だと語りました。

お互いの話に共感しあう池さんと加藤さん

「まちづくり」の根底にある Mastery for Service

時間はかかっても、粘り強く行動する。その先には、関わる人の笑顔や幸せがあるからこそ――お二人の話からは、まさにMastery for Serviceの精神が色濃く感じられます。

池さんは、当サイトのインタビューを受けたときに「自分がやっていることは何のためなのか」という問いに真正面から向き合ったと言います。そして「周りの人が楽しく過ごせるようにしたい」という気持ちが原動力なのだと気づいたそうです。

「Mastery for Serviceの精神は、多くの卒業生が学びの中で自然と大切にしてきた価値観だと感じます。今回、あらためてMastery for Serviceについて考える中で、まさに自分がやってきたことを肯定してくれる言葉だと感じました。これからも勇気を出さないといけないタイミングで思い出したいですね」

加藤さんも「実は取材をしてもらうまで深く考えたことはなかったのですが、振り返ってみると、自分がやってきたことはまさに Mastery for Service からエッセンスをもらっていたのだなと気づきました」と、しみじみ話します。

「まちづくりは、子どもたちが大きくなったときに『帰ってきたい』『誰かに誇りたい』と思える場所をつくる営みです。集客イベントをしても、終わったあとに静かになってしまっては意味がない。一人ひとりが、自分のまちに愛着と誇りを持てるようにする。その積み重ねこそが私にとってのMastery for Serviceなのだと感じますね」

会場には40名を超す方々が訪れ、二人の話に熱心に耳を傾けた

周りの人を少しでも笑顔にしたい・幸せにしたいという思いが、やがてまち全体の空気を変えていく――。加藤さんと池さんの言葉からは、そんな「まちづくりのリアル」が見えてきました。ブランドサイト『Mastery for Service』では、これからもこうした卒業生たちの物語を伝えていきます。


登壇者プロフィール

コミュニティデザイナー

加藤 麻理子さん

関西学院大学総合政策学部2010年3月卒業

大学卒業後、不動産ディベロッパー、都市計画のコンサルティング事務所で働き、関西各地で地域活性のプロジェクトの立ち上げを経験。現在は大阪阿倍野を拠点に「THE MARKET」「BLENDS books & share」を運営。店舗、イベント、ローカルメディアを活用しながら人と人をつなぎ、まちに変化を起こすコミュニティづくりを行っている。また、地域発の女性のチャレンジをサポートするコミュニティ「Her+(ハープラス)」を主宰。2児の母でもある。

株式会社五人百姓 池商店 28代目

池 龍太郎さん

関西学院大学経済学部2015年3月卒業

大学卒業後、出身地である香川県にて銀行員として勤務、その後、地元・琴平町役場で行政に携わる。コロナ禍を機に、鎌倉時代から続く家業「五人百姓 池商店」を継承。店舗を100年ぶりに全面リニューアルし、伝統の加美代飴を守りながら、地域の魅力を伝える“語り部”として町の小さな観光大使を増やす取り組みにも力を注いでいる。学生時代から続ける弓道では、世界大会に出場、母校の指導にも尽力している。