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Mastery for Service

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Mastery for Service

リポート

2024年11月24日、「関西学院ホームカミングデー2024」の場で、ブランドサイトの開設を記念し、本サイトに登場いただいた3名の卒業生によるトークイベント「ストーリーズ“Mastery for Service”」を開催しました。登壇いただいたのは、飲食店経営者の奥尚子さん、小学校教諭の川原翼さん、広告クリエイターで日曜学校校長の鈴木契さんです。3名それぞれの人生にまつわるMastery for Serviceについて語っていただいた、イベント当日の様子を紹介します。


Mastery for Serviceを実践する卒業生の生き方

登壇された3名はいずれもブランドサイトの立ち上げに向けて準備をしている頃、インタビューに協力いただいた卒業生です。

まずは、年齢も卒業学部も異なる3名がどのような活動や仕事に取り組んできたのか、お話いただきました。

奥さんは、アジア出身の“お母さん”が日替わりでシェフを務める「神戸アジアン食堂バル SALA」を経営しています。大学在学中、国際結婚をして日本に住んでいる “お母さん”たちと出会い、彼女らを元気にするために始めた母国料理を提供するイベントがこのお店の原点です。「お店のコンセプトである“Empowerment of all people”は、学生時代に仲間と考えた言葉。社会にはいろいろな人がいて、たとえ同じ考えにならなくてもお互いに存在を認め合い、そしてそれぞれの人が自分の価値を認められる社会をつくりたいという思いがこの言葉にこめられています」と奥さんは話します。

学生時代につくったコンセプトを、現在も経営者として大切にし続けているという奥さん
ホームカミングデー当日には、「神戸アジアン食堂バル SALA」の屋台の出店も

小学校教諭の川原さんは、大学1年生の時、ボランティアサークルの活動で訪れたフィリピンでストリートチルドレンの存在にふれ、子どもに関わる社会課題に目を向けるようになりました。ブラジルのスラム街も訪れて教育の必要性を痛感した川原さんは、一念発起して小学校教諭免許を取得。卒業後、外国にルーツをもつ子どもが多く暮らす神奈川県の小学校教員になりました。在職のまま青年海外協力隊員としてグアテマラで教育支援にも従事。そうした経験とスキルを活かし、学校外での活動にも取り組んでいます。「昨今、母国語しか話せない、外国にルーツをもつ子どもが公立小学校に入学するケースが増え、家庭も学校現場も困惑しています。地域には、こういった子どもたちを支援してくれる人がいるけれど、学校の先生とはつながっていません。そこで私は学校の外に出て、学校と地域の支援者をつなぐ役割を担っています」と、川原さんは自身の活動を紹介します。

関西学院高等部、関西学院大学を経て、卒業後は株式会社電通に就職し、広告の制作業務に携わってきた鈴木さん。広告クリエイターとして忙しい日々を過ごすかたわら、教会の日曜学校の校長という顔も持ち、毎週子どもたちに向けて聖書を題材にしたお話をしています。「何を伝えるか、どうやって伝えるかを決めていくのが広告制作の仕事。日曜学校では、子どもたちにどうしたらキリスト教の教えのことをわかってもらえるだろうかと悩みながら、話す内容を毎週自分で考えています。まったく異なる領域の活動であるにもかかわらず、一生懸命に取り組んでいるうちに、両方のスキルがクロスしてくるように感じています」と、鈴木さんは話します。

変化していくMastery for Serviceの捉え方

お三方のお話からは、三者三様の仕事・活動をしていながら、その根底には共通してMastery for Serviceの精神があると感じられます。自分の中でMastery for Serviceの意味を本当に理解できたと実感したのはいつ頃だったのか、聞いてみました。

会場には60名ほどの方にご参加いただいた

教会が身近にある環境で育ち、高等部から関西学院で学んでいた鈴木さんは、当時、キリスト教の教えの一つだと理解していたものの、意味について深く考えたことはなかったと答えます。改めて意識するようになったのは社会人になってからでした。「仕事をしていて何かトラブルが起こった時、その中で自分がどうふるまうのかを問われる場面が多くありました。そこで、自分だけが得して逃げようとするのではなく、自分が少し人に役立つようにがんばってみると、良い方向に向かうということが増えていき、これがMastery for Serviceではないかと気づきました。今は、自分のふるまいをMastery for Serviceに照らし合わせるとどうなのか、考えるようになっています」

一方、川原さんの場合、学生時代に所属していたサークルの顧問の先生からMastery for Serviceについて教わる機会が多くあり、その意味も理解していたと振り返ります。ただ、実践することを意識するようになったのは、「教員になり、子どもと学校で関わるようになってから」と話します。「子どもたちは将来、社会に出ていきます。社会は日々変わっていくので、目の前にいる子どもたちが社会に出た時に役立つ知識やスキルを伝えられるように、ServiceのためのMasteryを怠らず、自分自身も常にアップデートしていかなければならないと意識しています」

奥さんは、「表面的にしか理解できていなかった」と学生時代を振り返ります。自らが発起人となって立ち上げた学生団体で活動していた時は、自分ががんばらなければと強く思っていたそうです。その考えは、卒業後、お店を経営していくうちに変わっていきました。「自分だけでがんばっていると限界がきて、目の前の人をこれ以上助けられなくなってしまいます。そんな時に、他の人の力が加わることによって困難を解決できたという経験が増えてきて、Mastery for Serviceを実践するには自分一人の努力だけじゃなく、他の人の力も借りていいんだと、認識が変わりましたね」と、学生時代からの変化を語ります。

奥さんの発言を受け、川原さんは「奥さんと同じような経験をした」と話します。「教師になりたての頃は自分で何とかしなくちゃと思っていたけれど、課題はいろいろあって壁にぶち当たることが多くありました。でも、まわりを見てみると自分にはできないことができる人がたくさんいて、その人たちの力を借りると肩の荷が少しおりる感じがしました。思い返してみると、学生時代の活動でも青年海外協力隊でも、人とつながることの大切さは学んでいたんですよね。今は、連帯することがとても大切だと考えて実践しています」

青年海外協力隊では、支援先の人々が自走できる手助けをすることを目標にしていたという川原さん。「何かを“してあげる”ではない、つながり方が大事なのでは」と語る

鈴木さんは、東日本大震災の被災者支援に関わるクライアントの相談に応える中で、阪神・淡路大震災での経験が活かされた場面があったと言います。「その時、自分がこの場所にいることに意味があったんだと思いました。Mastery for Serviceとは結局、人の役に立つという、とてもシンプルなことなんですね。意識的にやっているわけじゃなく、目の前で起こっていることに対し、できることの大小は関係なく、少しだけでも何か役に立てればいいと考えられるようになったのは、自分にとってとても大きな変化」だと話します。

「少し役に立つという感覚は、私も同じ」と、奥さんは鈴木さんの考え方に共感します。「学生時代は自分が誰かを助けることで相手に喜んでもらいたいという気持ちが強くありました。ただ、活動を続ける中で、相手を助けるというのもおこがましいと感じたし、大変なことがたくさん起こると、それでは気持ちが続かないんです。奉仕するというより、少しでも目の前の困っている人の役に立つ、それが自分が住みたいと思える社会に近づくための活動なんだと考え方が変わると、気持ちが続くようになりました」

それぞれのMastery for Serviceとは

トークイベントの締めくくりに、現時点でのお三方にとっての「Mastery for Serviceとは?」という問いに答えていただきました。

奥さんは、学生時代に出会った「脱・身の丈」という言葉を今でもずっと変わらずに大事にしているそうです。「自分にできるのはここまでと決めてしまうと、できないことが増えてしまいます。だから、自分の身の丈を決めないで、いろんな人を巻き込んで、できる方法を探します。こうした取り組みのすべてがMastery for Serviceだと思っています」と話します。

川原さんは「今日、お二人と話をしながら、困っている人がいたら自分にできることをするのがMastery for Serviceの本質だと改めて感じた」と言います。「自分にできることをする、自分にできないことを誰かに頼るといった日々の営み、助け合いを丁寧に紡いでいき、いろんな人に寄り添って共に生きていくということがMastery for Serviceなのではないでしょうか」

「いろんなクライアントと仕事をし、相手の欲しているものに応えていると、自分が新しくなっていく感じがします」と、鈴木さんはMastery for Serviceの良さを語ります。「自分がやらないと、と力を入れてやるより、Mastery for Serviceしていくことによって周囲とふれ合いながら、自分にもこんなことができるんだという驚きを楽しむのがいいのではないかと思っています」

「いい意味で流されながら少しでも誰かの役に立てると、自分の可能性に気づくことができる」と話す鈴木さん

お三方のお話を聞いていると、Mastery for Serviceの捉え方は一人ひとり違いますが、重なっている部分もあると感じられました。また、登壇者ご自身もお互いの考え方や経験談を聞き、新たな気づきも得られた様子でした。トークインベントに参加いただいた同窓生の皆さんにとっても、Mastery for Serviceについて改めて考える時間になったのではないでしょうか。ブランドサイト「Mastery for Service」では今後も、卒業生の皆さんの声を飾らずに伝えていきます。

登壇者プロフィール

神戸アジアン食堂バルSALA 店長

奥 尚子さん

神戸市生まれ。2012年、関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。大手出版社で飲食店への企画営業や広報・店舗プロデュースを担当。2016年、神戸・元町に「神戸アジアン食堂バル SALA」をオープン。2023年、社会課題の解決に挑戦する女性リーダーをたたえる第7回チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞を受賞。

神奈川県公立小学校教諭

川原 翼さん

2007年、関西学院大学総合政策学部卒業。神奈川県秦野市の公立小学校に5年間勤務し、在職のまま青年海外協力隊員としてグアテマラで教育支援に従事。2015年に帰国後、秦野市と東海大学の連携による多文化共生推進プロジェクト「彩とりどりの子どもたち」を中核メンバーとして推進。外国にルーツを持つ子どもたちを支援する活動に取り組む。

株式会社電通 クリエーティブディレクター

鈴木 契さん

1999年、関西学院大学社会学部卒業。1999年に読売新聞125周年キャッチコピー大賞、2004年にニューヨークフィルムフェスティバル・ブロンズ、2006年にTCC新人賞、2011年にカンヌメディアライオン・ブロンズ、2014年やってみなはれ佐治敬三賞他、受賞多数。日本キリスト教会夙川教会日曜学校校長・長老も務める。