山田晋三さん、永田琴さんによる
トークイベント
『スポーツが教えてくれたこと』
リポート

2025年12月19日、関西学院大学 東京丸の内キャンパスで、東京では初となるトークイベントを開催しました。ご登壇いただいたのは、関西学院大学の卒業生であり、現在は筑波大学で大学スポーツの振興に取り組んでいる山田晋三さんと、映画やドラマの監督として注目を集める永田琴さんです。異なる分野で活躍されているお二人ですが、学生時代はアメリカンフットボール、チアリーディングと、それぞれスポーツに打ち込まれていたという共通点があります。そんなお二人に、スポーツの魅力について、また、そこで培ったものが今どのように活きているのかなど、たっぷり語り合っていただいたイベントの模様をお伝えします。
阪神・淡路大震災を経験した学生時代
——お二人は、大学生の頃からつながりがあったのでしょうか。
永田さん(以下、敬称略) お互い存在は知ってはいましたが、話したことはありませんでした。でも、2017年にWOWOWで東野圭吾さん原作の「片想い」という連続ドラマを撮影することになって。ストーリーの詳細はぜひ作品を観ていただきたいのですが(笑)、作中、登場人物たちが学生時代に所属していたアメフト部の試合を回想するシーンがあり、その際のフォーメーションや戦術を考えてもらうため、知人から山田くんを紹介してもらったことがきっかけでつながりができたんです。
山田さん(以下、敬称略) そのときに、初めて永田さんが映画監督として活躍されていることを知り、驚きました。
永田 原作を読んだ方はピンとくるかもしれませんが、描かれているアメフト部が関学の雰囲気に似ているんですよね。だから、同じ関学の出身者に協力してもらえるのは本当にありがたかったです。

——学生時代、とくに記憶に残っていることを教えてください。
山田 大学ではアメリカンフットボール部「FIGHTERS」に所属し、勝つことだけを考えて練習に明け暮れていました。しかし、忘れもしない1995年1月17日。大学4年生になる年に阪神・淡路大震災が起き、“勝ち”にこだわっていた価値観が一変しました。当時、関学付近のエリアは被災地で練習ができなくなってしまい、ボランティア活動をやろうと、部員たちと被災地を訪ねる日々を送っていました。そんなある日、たまたまFIGHTERSのユニフォームを着ていたら「応援しています」「がんばってください」と声をかけてもらえたんです。その言葉に勇気づけられ、「とにかく勝ちたい」から「ここにいる人たちのために、次もがんばって絶対に恩返しをしよう」と、試合への向き合い方が変わっていきました。この経験を通して学んだ、スポーツを通じた地域とのつながりの大切さや、人々を勇気づけることの尊さが、現在の大学スポーツの振興に取り組むきっかけの一つになっています。

永田 私が震災を経験したのは大学卒業の年でした。チアリーディング部の4年生は毎年「ウィンターフェスタ」というパフォーマンスショーを開催するのが恒例で、そのときも一週間後に本番を控え、追い込み練習をしていました。当然ながら地震の影響でウィンターフェスタは中止。それまでショーの準備で頭の中がいっぱいでしたから、突然やることがなくなってしまいました。そこで、自分たちにできることは何かと考え、メンバーを集めて避難所でパフォーマンスを披露したり、避難生活で運動不足になっている被災者の方々と一緒に、体を動かす取り組みを始めたりしたのです。その様子が好意的に新聞に取り上げられたこともあり、大学から許可がおりて最終的に3月にウィンターフェスタを開催させてもらえることになりました。
山田 ドラマみたいな展開ですね。
永田 来場した方々のアンケートの中に、今でも忘れられない言葉があって。それは、「(震災から間もない)こんな時期に何を考えているんだと思っていましたが、実際にステージを観たら感動しました」というもの。これを読んだときに、どんな状態であっても“エンタメ”は大事なんだと実感しました。
現在につながる、学生時代に培った考え方
——お二人とも、震災によって気づきを得られたのですね。そうした学生時代の経験は、現在どのように活かされていると感じますか。
山田 大学生活全体を通して学んだのは「人に貢献する」という考え方でしょうか。一般的に、スポーツ系の部活では1年生がグラウンド整備などの雑用をやるものと思われがちですが、関学のアメフト部は4年生が雑用をやるんです。4年生は授業が少ないから時間があるし、1年生よりもアメフト経験が長いから仕事も早い。理にかなっているんですよ。「後輩なんだからやれ」なんて誰も思わず、パフォーマンスを最大化するために、余裕のある先輩が後輩を支えることが、結果的に強いチームをつくるんです。
永田 若い世代を大切にするという風潮は現代にも合っていますね。私は「根性」かな。当時のチアリーディング部は「電車の中で3人以上の集団にならない」などルールが非常に厳しくて、常に「関学の顔であることを自覚しなさい」と言われ続けてきました。練習も厳しかったし、経理や企画、渉外・渉内など、あらゆることを自分たちでやってきたんです。大変な日々ではあったものの、やりたいこと=チアリーディングのためにがんばれました。私が映画の世界に足を踏み入れた時代は今より厳しかったのですが、それでも今日までやり抜けたのは、確実に学生時代に培った根性のおかげです。

山田 やはり、映画の現場はそうしたタフさが必要ですよね。それにしても、永田さんは大御所といわれる人と仕事をする機会もあると思うので、大変でしょう。
永田 自分の意見を押し付けるのではなく、相手の気持ちを聞くスタイルを心がけています。その上で、全体の方向性を調整する。この姿勢を崩さずにいれば、どんな方でも話を聞いていただけるようになるというのが持論です。学生時代、先輩から「あなたは自分の言いたいことばっかり口にするわね」と注意されたことがあったので、これもまたチアリーディング部で学んだことですね(笑)。今は、相手にリスペクトを持って物事を進める技術を身につけました。
山田 すばらしい。
永田 映画のエンドロールを観るとたくさんのスタッフが関わっていることがわかるように、映画は分業制なんです。監督、カメラマン、スタイリストなど、まったく違う分野の人たちが集まって一つの作品が完成します。だから、お互いの仕事にリスペクトを持たないと現場が成り立たないんですよね。
チームを率いるリーダーとして大切なものとは
——リーダーといわれる立場にいらっしゃるお二人が心がけていることはありますか。
山田 リーダーにはいくつかパターンがあります。山登りにたとえるなら、列の先頭に立って「全員俺についてこい」というスタイル、列の一番後ろで「がんばれ」とチームの背中を押してあげるスタイル、列の真ん中に立って前後を鼓舞するスタイルなど、多種多様です。時代やチームに適した形があると思うので、都度、合わせていきたいと思っています。
永田 映画は、自分で立てた企画に賛同してくれたメンバーを率いて、チームをつくることから始まります。でも自分だけ張り切って進んでいたら、気づいた頃には誰もついてきていなかったなんてこともあるんですよ。その点では、自分が先導する立場ではあるものの、一歩引いてチーム全体に目を配るくらいのバランスが私にとってはベストなんだろうと思っています。
山田 リーダーシップは、必ずしもリーダーが取らなければいけないわけではありません。その瞬間にチームが必要としている役割を察して、リーダー以外の人が動くことも重要なんです。これは、コーチングを学ぶようになって気づいたことです。
永田 確かに、映画の世界では監督が全体の長と考えるのが一般的ですが、チームによってカラーは異なりますね。たとえば撮影の現場ではカメラマンが仕切るチームもありますし、助監督が仕切ることもあります。
——チームワークを高めるために、大事にしていることはありますか。
山田 何のために、誰のために目標を達成したいのか設定し、みんなで共有することです。もちろん、プロとなれば勝利にこだわることは大切ですが、大学スポーツは勝つだけがすべてではありません。誰かのために練達したいという、まさに“Mastery for Service”のような考え方を持つことが本当に強いチームをつくると考えています。
永田 先ほども話したように、映画は分業制で、何を一番大切にするかという価値観が異なる人が集まる世界です。だからこそ、個々の価値観を否定せずに「彼らがいるから自分の仕事が成り立っている」という気持ちを常に持つことが大切だと思います。特に、リーダー的立場になるとそのことを忘れてしまいがちなので気をつけたいですね。あとは、若い世代の気持ちを理解することでしょうか。たとえば、助手を務めている子の視野が狭くなっているようだったら頭ごなしに注意するのではなく、どうすれば視野が広がるかを一緒に考えるようにしています。私自身、若い頃は自分の仕事が周りにどんな影響を与えているかわからず、目の前のことに必死になりがちだったので。
山田 “昔の自分“でもある人たちを否定しないということですね。
永田 そう。気持ちは痛いほどわかるので、違う視点に立てるようなアドバイスを心がけています。
当日は、参加者からの質問にお答えいただく時間も設けられました。なかでも印象的だったのが、「お二人のバイタリティの源は何ですか」という質問です。
永田 観ている方に何らか気づきを与えることを目標に、常に映画のテーマを探しています。その上では、自分の中にある「やりたい」と思う気持ちですね。あとは、そうやってつくりあげた作品に対して感想をいただけることも次の作品づくりのバイタリティにつながっています。
山田 自分の中で組織の考え方を言語化することでしょうか。「自分はこのためにやっているんだ」と感じられることがバイタリティです。

お二人の軽快なトークに、会場からは時折笑い声が聞こえ、終始なごやかなムードでイベントは幕を閉じました。
現在、筑波大学で大学スポーツの新たな可能性を模索する山田さんがめざしているのは、アメリカの大学スポーツのように、学生や卒業生のロイヤリティを高め、母校への誇りが自然と循環していく仕組みづくりです。一方、「観ている方に気づきを与えたい」という思いで映画づくりの現場に立ち続ける永田さんは「また新たな制作に向けて動いていきます」と、さらなる挑戦の姿勢を見せてくれました。
フィールドは違うお二人がスポーツを通して学んだことは、自らの力を誇示するのではなく、他者の存在を起点に行動する姿勢。お二人の真摯なメッセージは、まさに“Mastery for Service”を体現しているようで、私たちも胸が熱くなりました。お二人の今後の活躍を楽しみにしています。
登壇者プロフィール

筑波大学 体育スポーツ局 次長
山田 晋三さん
関西学院大学商学部 卒業
大学卒業後、NTT入社。1999年アメリカンフットボール日本代表に選出され第1回ワールドカップ優勝。2001年日本人初の北米プロフットボールリーグXFLに参戦。2010〜2017年 IBM BIG BLUEのヘッドコーチを経て、現在は筑波大学体育スポーツ局次長として大学スポーツの変革をめざす。

映画監督
永田 琴さん
関西学院大学商学部 卒業
岩井俊二監督の助手を務めた後、2004年『恋文日和』で劇場映画デビュー。映画・ドラマの監督・脚本を手がけ、繊細な人間描写と映像美で注目を集める。最新作『愚か者の身分』は第30回釜山国際映画祭コンペに選出され、主演3人が同時にベストアクター賞を受賞。2011年に自身のスタジオを設立し、子ども向けワークショップ「えいがっこ!」を主宰。現在は、次世代の表現者育成にも取り組んでいる。